小数個の転移の場合に積極的治療で生存率は改善するか?
1 SABR(定位放射線治療)群 66例 全ての転移に、SABR(定位放射線治療 3-8分割)を行う
2 緩和治療群 33例 標準的な緩和的放射線治療のみ
直腸がん化学放射線治療後の待機療法、手術は避けられる?
以前にも書いたが再度、直腸癌の化学放射線療法の話題があった。ちょうどLancetという世界でも最高級の医学雑誌にも掲載された。化学放射線療法後に腫瘍が完全消失し待機療法(手術をしないで様子を見ること)後どうなったか、を千人以上の患者で国際的に調査した。その結果、5年時点での全生存率(他疾患も含めてた生存率)は 85%、直腸癌のみによる生存率は94%と良好で、直後に手術をした場合と変わらない。
2年間で25.2%が再発したが、ほとんどは局所再発であった。すなわち待機療法で仮に再発しても、ほとんどが救済手術が可能なことを示している。
患者本人も医師も待機療法は、病変が残っているのではないか、リンパ節などの郭清をしていないので心配、とのことはある。しかし、データを見る限りそれでも生存率は良好でリンパ節転移、遠隔転移は少ないので直腸肛門を温存できる可能性のある待機療法の意義は大きい。
一方、化学放射線療法後の完全奏功は2割程度とされており、また再発時の救済手術も必要であることから多くは外科手術が主体であることも確かである。待機療法は標準治療ではないし、可能性があるのは運の良かった人、とはなるが個別に医師と患者で相談しながら事実に基づいて患者主体の合理的な判断をしていくことが必要であろう。
また、本研究は信頼度がもっとも高いとされるくじ引き試験などでなく、通常の方法でおこなった治療を調査した観察研究といわれるものであるが、多数の国々からオンラインでデータベースに登録していったことで客観的な評価を得ている。このようなITを活用した取り組みが臨床研究にも大きく貢献できるだろう。
肛門癌の化学放射線療法と人工肛門
肛門の扁平上皮がんは、多くはヒト・パピローマウィルスとも関係あるとされており、近年増加傾向にあります。抗がん剤と放射線治療への感受性が高く効果があるため、可能な場合には、まず化学放射線治療を行ないなるべく人工肛門を避けることが世界的な標準治療になっています。
このままうまくいけば肛門を温存できるのですが、残念ながら一部の方は再発して手術し人工肛門になります。また、より少ないですが治療関連の副作用で人工肛門になることもあります図。
この研究は、人工肛門になる危険因子(どのような場合、にリスクが高いか)を解析したものです。結果として、再発に関連しては腫瘍が大きいものが、治療関連では放射線治療前の局所切除または切除生検が危険因子でした。
この研究の段階での放射線治療は3次元原体照射(3D-CRT)ですが、現在ではIMRTを使うのが標準となっています。
肛門癌への治療は発展途上であり、様々な可能性がありますが、より肛門温存率を高める治療法の開発が必要でしょう。
原文;Cause-specific colostomy rates after radiotherapy for analcancer: a Danish multicentre cohort study. Sunesen KG他.J Clin Oncol. 2011
下部直腸がんで人工肛門を避ける可能性は?
lancet Oncology 2016年掲載 Watch-and-wait approach versus surgical resection after chemoradiotherapy for patients with rectal cancer (the OnCoRe project): a propensity-score matched cohort analysis より
直腸がん術前に化学放射線治療を行うことは欧米では標準的治療となっているが、そのうち10-20%は完全に腫瘍が消失する。現時点ではその場合でも手術を行い、肛門に近い腫瘍の場合には人工肛門とすることが通常である。2011年~2013年にかけてマンチェスターで手術をせずに様子をみた” Watch-and-wait”患者と手術をした同数の2群の治療結果を統計的に比較した(傾向スコアマッチング法)。
その結果、3年非再発・無病生存期率、3年総生存率に有意差は認められなかった。ただし、Watch-and-wait”患者も3割程度は結果として人工肛門になっている。https://www.jastro.or.jp/journalclub/detail.php?eid=00179にも日本語要約あり。
また別の論文(Lancet 2018)ではランダム化して直腸全摘術と局所手術を比べているが(GRECCAR 2)、この場合も再発率、生存率とも有意差がなく、同じ程度の成績であったが、人工肛門率も含め副作用は少なかった。人工肛門を避けられた患者のQOL(生活の質)は相対的によく、結果的に無用な人工肛門を避けることが多少とも期待できるなら、治療選択の一つとして患者に提示されるべきであろう。
また、画像診断法の進歩により腫瘍の消失がより正確に確認できるようになりつつあることも朗報で、一部ではあっても患者にメリットのある治療として考えられる。