Month: 5月 2018

3期非小細胞肺癌放射線治療後の免疫チェックポイント阻害剤

Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2017

この論文そのものについては、ネット上にも多数紹介があるので詳しくのべないが、局所進行肺癌に対しての通常の化学放射線療法の後に免疫チェックポイント阻害剤(デュルバルマブ)を使用することで大きな治療効果改善が見られた、とのものである。
腫瘍は体内の免疫細胞から攻撃されないように巧妙に自分を「隠し」、攻撃対象でないと思わせて身を守っている。逆に言えば、大きくなるような腫瘍はそのような「隠蔽」機構が備わったので成長できたのである。免疫チェックポイント阻害剤はその「隠蔽」機構を働かなくさせ、免疫細胞から見える状態にする。その際に、より免疫機能が働くためには、腫瘍をある程度破壊し、免疫を感作しやすくすることに放射線が有効なのかもしれない。具体的には臨床試験によって確認しなければならないが、基礎実験では有望な結果も得られている。今後、放射線治療の新たな使い方に発展する可能性がある。

限局性前立腺癌の治療と無治療の比較

10-Year Outcomes after Monitoring, Surgery,or Radiotherapy for Localized Prostate Cancer. The New England Journal of Medicine, 2016より。
前立腺癌は進行が遅いので、少なくなっているとはいえ、治療による副作用も考慮し、すぐに治療を開始せずに様子を見ていくことがある。この研究では50歳以上、70歳未満で、研究参加に同意された1643名の前立腺癌の方において、くじ引きでこの無治療(active-monitoring)と、手術、放射線治療に3分の1ずつ割り振って10年後の結果を比較した。
その結果としては、17名(1%)の方が前立腺癌でなくなった。それぞれの方法で比較すると無治療の場合は1000人あたり年間1.5人、手術では同0.9人、放射線治療では同0.7人であり、統計的には有意差はない。他の原因も含めて死亡されたのは169人で、これも3つのグループで差はなかった。しかし、転移の出現は「無治療」の場合33名で、他のグループの倍であった。病気が進行する割合も無治療で112名あり、他のグループの倍であった。
この結果を解釈すると、当初「無治療」でも50-60代の方は再発、転移が若干多いが10年後の生存率はどの方法でも十分低い、と思われる。
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実際にはこの試験の参加者は、PSA、グリソン値(腫瘍の悪性度)病期などは低めで再発リスクの少ない方が中心でした。また、ここでいう「無治療」とは、すぐに治療しない、とのことで定期的にPSA値をみて進行が疑われたら治療をする方針であって絶対に治療しない、とのことではなく、また定期的検査もぜずに放っておくのではないことは注意が必要です。転移、再発があっても死亡率が低いことは前立腺癌ではホルモン治療などでこれらに対する治療法が少なくとも治療後10年の段階では有効、とのことです。更に10年より先を考えれば最初から治療した方が良いかもしれないが、年齢が高い方では様子をみる選択も十分あるでしょう。
この研究は英国で行われたものですが、一般に欧州では医療費抑制の観点からも積極的治療に抑制的です。

下部直腸がんで人工肛門を避ける可能性は?

lancet Oncology 2016年掲載 Watch-and-wait approach versus surgical resection after chemoradiotherapy for patients with rectal cancer (the OnCoRe project): a propensity-score matched cohort analysis より
直腸がん術前に化学放射線治療を行うことは欧米では標準的治療となっているが、そのうち10-20%は完全に腫瘍が消失する。現時点ではその場合でも手術を行い、肛門に近い腫瘍の場合には人工肛門とすることが通常である。2011年~2013年にかけてマンチェスターで手術をせずに様子をみた” Watch-and-wait”患者と手術をした同数の2群の治療結果を統計的に比較した(傾向スコアマッチング法)。
その結果、3年非再発・無病生存期率、3年総生存率に有意差は認められなかった。ただし、Watch-and-wait”患者も3割程度は結果として人工肛門になっている。https://www.jastro.or.jp/journalclub/detail.php?eid=00179にも日本語要約あり。
また別の論文(Lancet 2018)ではランダム化して直腸全摘術と局所手術を比べているが(GRECCAR 2)、この場合も再発率、生存率とも有意差がなく、同じ程度の成績であったが、人工肛門率も含め副作用は少なかった。人工肛門を避けられた患者のQOL(生活の質)は相対的によく、結果的に無用な人工肛門を避けることが多少とも期待できるなら、治療選択の一つとして患者に提示されるべきであろう。
また、画像診断法の進歩により腫瘍の消失がより正確に確認できるようになりつつあることも朗報で、一部ではあっても患者にメリットのある治療として考えられる。