限局性前立腺癌の治療と無治療の比較

10-Year Outcomes after Monitoring, Surgery,or Radiotherapy for Localized Prostate Cancer. The New England Journal of Medicine, 2016より。
前立腺癌は進行が遅いので、少なくなっているとはいえ、治療による副作用も考慮し、すぐに治療を開始せずに様子を見ていくことがある。この研究では50歳以上、70歳未満で、研究参加に同意された1643名の前立腺癌の方において、くじ引きでこの無治療(active-monitoring)と、手術、放射線治療に3分の1ずつ割り振って10年後の結果を比較した。
その結果としては、17名(1%)の方が前立腺癌でなくなった。それぞれの方法で比較すると無治療の場合は1000人あたり年間1.5人、手術では同0.9人、放射線治療では同0.7人であり、統計的には有意差はない。他の原因も含めて死亡されたのは169人で、これも3つのグループで差はなかった。しかし、転移の出現は「無治療」の場合33名で、他のグループの倍であった。病気が進行する割合も無治療で112名あり、他のグループの倍であった。
この結果を解釈すると、当初「無治療」でも50-60代の方は再発、転移が若干多いが10年後の生存率はどの方法でも十分低い、と思われる。
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実際にはこの試験の参加者は、PSA、グリソン値(腫瘍の悪性度)病期などは低めで再発リスクの少ない方が中心でした。また、ここでいう「無治療」とは、すぐに治療しない、とのことで定期的にPSA値をみて進行が疑われたら治療をする方針であって絶対に治療しない、とのことではなく、また定期的検査もぜずに放っておくのではないことは注意が必要です。転移、再発があっても死亡率が低いことは前立腺癌ではホルモン治療などでこれらに対する治療法が少なくとも治療後10年の段階では有効、とのことです。更に10年より先を考えれば最初から治療した方が良いかもしれないが、年齢が高い方では様子をみる選択も十分あるでしょう。
この研究は英国で行われたものですが、一般に欧州では医療費抑制の観点からも積極的治療に抑制的です。

Posted on: 2018年5月20日, by : ETSUO KUNIEDA