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小数個の転移の場合に積極的治療で生存率は改善するか?

転移があると、通常は放射線治療や手術などの強力な局所治療は行いません。何かするとしても全身化学療法をおこないますが、血液系腫瘍などを除き腫瘍を完全に消滅させることは難しく、副作用も全身に出現するため積極的な治療でなく症状を軽減する緩和療法に移行することも多々あります。
しかし、数個の転移ならば原発巣に対するのと同様に積極的な局所療法が有効かもしれません。
本研究では、緩和療法になった方において、数個の転移に対して定位放射線治療をするかしないかをくじ引きで決めて2グループに分けましたが、定位放射線治療のグループで生存期間が延長しています。転移部位によっては手術による摘出ができる場合もありますが、放射線治療は体のどこにでも施行可能で負担も少ないので転移に対して理想的な局所療法になります。標準的治療として勧めるには、今後さらに大規模な実証研究が必要で、現時点で行われている治療ではないですが、最近の免疫療法、分子標的薬などの新しい全身療法の進歩に伴い、微小な転移の増大や新たな出現を抑える可能性もあり、転移に対する治療戦略が大きく変わってくるかもしれません。
具体的には4カ国10 施設において、年齢18歳以上、期待される生存期間が6ヶ月以上、原発巣制御、少数転移(5個以内)のか試験に参加希望された方々を

1 SABR(定位放射線治療)群   66例  全ての転移に、SABR(定位放射線治療 3-8分割)を行う

2 緩和治療群  33例 標準的な緩和的放射線治療のみ

と、分けて両群とも標準的全身療法は必要に応じて行いました。このような臨床試験では途中で患者さんの考え方が変わることもあるので何人かは方針が変わってしまい、このとおりの数で治療したわけではありませんが、その場合も厳密さを求めて最初の意図の通りの振り分けで解析をします。1 SABR(定位放射線治療)群では、2の緩和治療のみの群と比較して生存期間で41ヶ月と21ヶ月と大きく改善しています。
一方、 SABR(定位放射線治療)群では治療に伴う副作用死が3件ありました。今後治療法の改善で減らすことができるかもしれませんが、一般には治療に伴う不利益もあるので実際に行う場合は利点、欠点を十分検討するべきでしょう。

Lancet 2019

Stereotactic ablative radiotherapy versus standard of care palliative treatment in patients with oligometastatic cancers (SABR-COMET): a randomised, phase 2, open-label trial.

治癒可能ながんにおいて補完医療は生存率を下げる?

補完医療、通常治療の拒否と治癒しうるがんにおける生存率

Complementary Medicine, Refusal of Conventional Cancer Therapy, and Survival Among Patients With Curable Cancers. JAMA Oncology 2018

がん患者はサプリメントや気功やその他の民間療法にも頼る気持ちが多少ともあります。心理的な面も含めて、このような通常治療に加える「治療」のプラス面はありうるかもしれませんが、その一方で本来おこなうべき標準的な治療が行われない方向に向かい、デメリットとなる可能性もあります。

この研究では米国の疾患データベースを使って、通常の治療に加えて「補完医療」を行なった場合、生存率にどのように影響するかを統計的に調査しています。

比較したのは190万人のがん患者データベースの中で258人の補完医療を選んだ患者です。こここでは通常の治療の最低1つに加えて民間医療などを選んだ方を補完医療の群としています。比較的若く、教育レベルが高く、収入もある方、女性がより選択する傾向があります。またより進行したがんの場合も補完医療が選ばれるようです。

この研究はすでにあるデータベースから調査するので、実験のように前もって計画された方法でおこなう研究と比べて様々な要素が関与し、結果に影響する可能性もありますが、他の要素の影響をなるべく排除するような統計的手法(傾向スコア解析)で補正しており、現実的に得られる結果としてはより信頼性の高いものです。その補正後の結果は、より手術、化学療法、放射線治療、ホルモン治療を拒否する場合が多く、また、5年後の生存率は低く、乳がんなどで有意差(84.8%対90.4% p=0.001)がありました。

もう少し詳しい解析をすると、補完治療を受けた方は追加の標準的な治療を拒否する傾向にあり、それが生存率の低下に関与しているものと思われました。逆に言えば、標準的な医療を拒否しなければ生存率は低下しませんが、標準的治療を拒否する傾向があるため、数字上での結果では「補完医療の使用」によって「約2倍の生存に対する危険」があることが判明しています。

ハイテクの天才であるスティーブ・ジョブズ氏、芸能人では川島なお美さんや小林麻央さんの残念ながら場合もありますが、実に多くの人がサプリメントを含めた広い意味での代替医療、補完医療を受けています。先に述べたように全てを否定するわけではありませんし、通常の医療では見放さされたと感じるが為に代替、補完医療に向かう人もいるでしょう。しかし、代替、補完医療によって受けるべき治療の機会が失われたり、さらにはより巧妙に「先端医療」の皮を被った高額な「医療」、患者の藁をもすがる気持ちにつけこんで一見合法的にオレオレ詐欺より悪質な「詐欺」行為が蔓延しており、しばしばその犠牲者を見かけることは大変残念なことです。ネットでがん関係の検索をすると健康食品や問題のある「治療」などが上の方に出てきます。これらに対して規制が若干でもされるようになったとのことですが、まだまだ十分ではありません。