Month: 6月 2019

乳がん全摘手術後の寡分割照射

乳がんの治療では一般に腫瘍のみをまたは乳腺の一部を切除してから放射線照射をおこなう乳房温存療法と乳房を全体を切除する全摘術とかがあり、両者で治療成績は変わりません。しかしより進行した乳がんの場合には全摘術が選ばれることが多く、特にリンパ節転移がある場合にはリンパ節領域も含めた術後放射線治療をおこなうべきとされています。

乳房温存療法の放射線治療の場合には25回程度の通常分割照射と15回程度で施行する寡分割照射に成績の差がないとされていますが、全摘後の放射線治療の場合も寡分割照射でも良いのでしょうか。

この中国での比較試験では、50Gyを25分割(1回2Gy、414人)の通常分割群と、43.5Gyを15分割(1回2.9Gy、406人)の寡分割群で、後者で照射中の皮膚の発赤などはやや多かったが、強い副作用や生存率に差はなかったとされています。しかしまだ中国の一つの施設での臨床試験だけなので温存療法後のように標準治療とされるまではいかないでしょう。乳がんのように予後の良い場合には特に治療法の全面的な変更には保守的になります。うまくいっている治療法は治療期間が短くなるといっても標準をすぐには変える必要はありません。ただ高齢者や何らかの理由で外来通院が困難な方には、まだ一般的な治療ではないということ十分にお話してからお勧めしても良いかもしれません。

 

Hypofractionated versus conventional fractionated postmastectomy radiotherapy for patients with high-risk breast cancer: a randomised, non-inferiority, open-label, phase 3 trial.

Lancet Oncol. 2019

小数個の転移の場合に積極的治療で生存率は改善するか?

転移があると、通常は放射線治療や手術などの強力な局所治療は行いません。何かするとしても全身化学療法をおこないますが、血液系腫瘍などを除き腫瘍を完全に消滅させることは難しく、副作用も全身に出現するため積極的な治療でなく症状を軽減する緩和療法に移行することも多々あります。
しかし、数個の転移ならば原発巣に対するのと同様に積極的な局所療法が有効かもしれません。
本研究では、緩和療法になった方において、数個の転移に対して定位放射線治療をするかしないかをくじ引きで決めて2グループに分けましたが、定位放射線治療のグループで生存期間が延長しています。転移部位によっては手術による摘出ができる場合もありますが、放射線治療は体のどこにでも施行可能で負担も少ないので転移に対して理想的な局所療法になります。標準的治療として勧めるには、今後さらに大規模な実証研究が必要で、現時点で行われている治療ではないですが、最近の免疫療法、分子標的薬などの新しい全身療法の進歩に伴い、微小な転移の増大や新たな出現を抑える可能性もあり、転移に対する治療戦略が大きく変わってくるかもしれません。
具体的には4カ国10 施設において、年齢18歳以上、期待される生存期間が6ヶ月以上、原発巣制御、少数転移(5個以内)のか試験に参加希望された方々を

1 SABR(定位放射線治療)群   66例  全ての転移に、SABR(定位放射線治療 3-8分割)を行う

2 緩和治療群  33例 標準的な緩和的放射線治療のみ

と、分けて両群とも標準的全身療法は必要に応じて行いました。このような臨床試験では途中で患者さんの考え方が変わることもあるので何人かは方針が変わってしまい、このとおりの数で治療したわけではありませんが、その場合も厳密さを求めて最初の意図の通りの振り分けで解析をします。1 SABR(定位放射線治療)群では、2の緩和治療のみの群と比較して生存期間で41ヶ月と21ヶ月と大きく改善しています。
一方、 SABR(定位放射線治療)群では治療に伴う副作用死が3件ありました。今後治療法の改善で減らすことができるかもしれませんが、一般には治療に伴う不利益もあるので実際に行う場合は利点、欠点を十分検討するべきでしょう。

Lancet 2019

Stereotactic ablative radiotherapy versus standard of care palliative treatment in patients with oligometastatic cancers (SABR-COMET): a randomised, phase 2, open-label trial.