治癒可能ながんにおいて補完医療は生存率を下げる?
補完医療、通常治療の拒否と治癒しうるがんにおける生存率
がん患者はサプリメントや気功やその他の民間療法にも頼る気持ちが多少ともあります。心理的な面も含めて、このような通常治療に加える「治療」のプラス面はありうるかもしれませんが、その一方で本来おこなうべき標準的な治療が行われない方向に向かい、デメリットとなる可能性もあります。
この研究では米国の疾患データベースを使って、通常の治療に加えて「補完医療」を行なった場合、生存率にどのように影響するかを統計的に調査しています。
比較したのは190万人のがん患者データベースの中で258人の補完医療を選んだ患者です。こここでは通常の治療の最低1つに加えて民間医療などを選んだ方を補完医療の群としています。比較的若く、教育レベルが高く、収入もある方、女性がより選択する傾向があります。またより進行したがんの場合も補完医療が選ばれるようです。
この研究はすでにあるデータベースから調査するので、実験のように前もって計画された方法でおこなう研究と比べて様々な要素が関与し、結果に影響する可能性もありますが、他の要素の影響をなるべく排除するような統計的手法(傾向スコア解析)で補正しており、現実的に得られる結果としてはより信頼性の高いものです。その補正後の結果は、より手術、化学療法、放射線治療、ホルモン治療を拒否する場合が多く、また、5年後の生存率は低く、乳がんなどで有意差(84.8%対90.4% p=0.001)がありました。
もう少し詳しい解析をすると、補完治療を受けた方は追加の標準的な治療を拒否する傾向にあり、それが生存率の低下に関与しているものと思われました。逆に言えば、標準的な医療を拒否しなければ生存率は低下しませんが、標準的治療を拒否する傾向があるため、数字上での結果では「補完医療の使用」によって「約2倍の生存に対する危険」があることが判明しています。
ハイテクの天才であるスティーブ・ジョブズ氏、芸能人では川島なお美さんや小林麻央さんの残念ながら場合もありますが、実に多くの人がサプリメントを含めた広い意味での代替医療、補完医療を受けています。先に述べたように全てを否定するわけではありませんし、通常の医療では見放さされたと感じるが為に代替、補完医療に向かう人もいるでしょう。しかし、代替、補完医療によって受けるべき治療の機会が失われたり、さらにはより巧妙に「先端医療」の皮を被った高額な「医療」、患者の藁をもすがる気持ちにつけこんで一見合法的にオレオレ詐欺より悪質な「詐欺」行為が蔓延しており、しばしばその犠牲者を見かけることは大変残念なことです。ネットでがん関係の検索をすると健康食品や問題のある「治療」などが上の方に出てきます。これらに対して規制が若干でもされるようになったとのことですが、まだまだ十分ではありません。
直腸がん化学放射線治療後の待機療法、手術は避けられる?
以前にも書いたが再度、直腸癌の化学放射線療法の話題があった。ちょうどLancetという世界でも最高級の医学雑誌にも掲載された。化学放射線療法後に腫瘍が完全消失し待機療法(手術をしないで様子を見ること)後どうなったか、を千人以上の患者で国際的に調査した。その結果、5年時点での全生存率(他疾患も含めてた生存率)は 85%、直腸癌のみによる生存率は94%と良好で、直後に手術をした場合と変わらない。
2年間で25.2%が再発したが、ほとんどは局所再発であった。すなわち待機療法で仮に再発しても、ほとんどが救済手術が可能なことを示している。
患者本人も医師も待機療法は、病変が残っているのではないか、リンパ節などの郭清をしていないので心配、とのことはある。しかし、データを見る限りそれでも生存率は良好でリンパ節転移、遠隔転移は少ないので直腸肛門を温存できる可能性のある待機療法の意義は大きい。
一方、化学放射線療法後の完全奏功は2割程度とされており、また再発時の救済手術も必要であることから多くは外科手術が主体であることも確かである。待機療法は標準治療ではないし、可能性があるのは運の良かった人、とはなるが個別に医師と患者で相談しながら事実に基づいて患者主体の合理的な判断をしていくことが必要であろう。
また、本研究は信頼度がもっとも高いとされるくじ引き試験などでなく、通常の方法でおこなった治療を調査した観察研究といわれるものであるが、多数の国々からオンラインでデータベースに登録していったことで客観的な評価を得ている。このようなITを活用した取り組みが臨床研究にも大きく貢献できるだろう。