非小細胞肺がん転移への体幹部定位放射線治療は有効か?

転移のあるがんには一般的には化学療法が行われます。化学療法は全身への効果がありすでに原発巣(肺)から全身に広がった病変には特に有効だからです。しかし、全身療法であるため毒性(副作用)も全身に及びます。そのため限度があり、縮小しても病変が残り再増大する可能性があります。このような場合に局所療法としての放射線治療を加えることで生存率が改善するのではないかとの議論は昔からあります。局所療法としては手術もありますがこの場合は侵襲的な手術は現実的には難しく、放射線治療が向いており、米国などの一部の施設ではすでに実施されています。
この、米国医師会の雑誌(JAMA Oncology)に掲載された研究は、原発巣と5個までの転移のある非小細胞肺がんに最初に一連の化学療法を行った後、続けて繰り返して維持的に化学療法を行うまでの間に、定位放射線治療を行うか、行わないかを29人の方をくじ引きで2つのグループにわけて比較しています。結果は図2に示すように(原文から引用。英語のままです)定位放射線治療を行った方が無増悪生存率(新たな転移や再発無しでいる率)が著明に改善しています(9.7ヶ月対3.5ヶ月)。SAbRというのは定位放射線治療のことで(Stereotactic Ablative Radiotherapy)SBRTともいわれます。
ただ、この研究はフェーズ2というパイロット研究のようなもので参加した患者さんの数が少なく、より多人数でおこなうフェーズ3試験の結果を待たないと完全な医学的確証(エビデンス)となりませんが、これまではいくつかの研究ではいわれていても直接に比較した研究はなかったので大きな一歩となっています。今後肺がん以外にも拡大していくでしょう。
残念ながら、日本の現状ではこのような場合には、定位放射線治療としての健康保険の適応はありません。しかし、他の新治療より、むしろ効果、費用でも利点で、早く保険に採用されると良いと思います。

このような、「くじ引き試験」は、患者さんに対して行うわけですから、倫理に基づくことが要求されます。この研究では、途中の解析で放射線治療をおこなった方が良い、という結果が出たので29人参加の時点で倫理的な観点から研究としては中止になっています。しばらく前に高血圧の薬の臨床試験で大きな問題になったことがありますが、公正に行われなければ、医学全体に対する信頼性にも疑問がつくことになります。同じ日本人として大変残念な事件です。

原文:JAMA Oncol. 2018 Jan 11;4(1) Consolidative Radiotherapy for Limited Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer: A Phase 2 Randomized Clinical Trial.PubMed

Posted on: 2018年6月10日, by : ETSUO KUNIEDA