手術可能なI期非小細胞肺がんでの手術と定位放射線治療の成績比較
手術可能なI期非小細胞肺癌の定位切除的放射線療法と肺葉切除術:2つのランダム化試験のプール分析 Lancet Oncology 2015
手術可能なI期非小細胞肺癌(NSCLC)の標準治療は、縦隔リンパ節郭清と肺葉切除である。定位放射線治療: Stereotacticablative radiotherapy (SABR) と手術を比較する、2つの無作為化第3相試験は、対象患者が集まらないため早期に終了になった。これらの試験からのデータをプールすることにより、手術とSABRの全生存期間を評価した。
対象となる患者は、臨床病期T1-2a(4cm未満)、N0M0、手術可能で、定位放射線治療と肺葉切除術に対して1:1の比率でランダムに割り当てられた。
結果として、58名の患者が無作為に割り当てられた(31名はSABR、27名は手術)。3年生存率は、SABR群では95%、手術群は79%(64-97)。3年無再発生存率は、SABR群で86%、手術群で80%。手術群では、1例領域リンパ節再発、2例遠隔転移。 SABR群では1例局所再発、4例領域リンパ節再発、1例は遠隔転移であった。 SABR群の3人(10%)の患者に、グレード3の有害事象(胸壁痛10%3例、呼吸困難咳6%2例、疲労および肋骨骨折1例3例)があった。グレード4の事象または治療関連の死亡はなかった。外科手術群では、1人(4%)の患者が外科的合併症で死亡し、12人(44%)の患者がグレード3〜4の治療関連有害事象を有していた。手術群グレード3の事象は、呼吸困難(4人の患者15%)、胸部の痛み(患者4人の15%)、肺の感染症(2人の7%)。
SABRは、手術可能なI期NSCLCの選択肢であり得る。患者のサンプルサイズが小さく、追跡期間が短いので、手術可能な患者におけるSABRと手術とを比較した追加の無作為試験が望まれる。
解説:
早期肺がんに対して手術と定位放射線治療のどちらの優れているかを比較する研究は、現在、3つの例外を除いて全て後ろ向き研究です。後ろ向き研究というのはすでに行われた治療のカルテなどを調べて再発率などを比較するもので、選択バイアス(比較する群間で、治療法以外のその他の要素が偏っているための誤差)が正確な結果が得られません。治療法自体がどちらが優れているか(あるいは同等か)を評価するには、ランダム化が必要ですが、このように大きく違う治療法の間ではなかなか難しいです。患者さんにとってみれば自分の治療が手術か放射線治療かくじで決められる、というのはちょっと納得がいかないですよね。だからこれらの研究は参加してくれる患者さんが集まらず途中で中止になっています。そこで、この2つの研究を合わせて解析してみたところ放射線治療の方が良いのではないか、という結果が出ました。
ただ、この研究にはいくつかの批判もあります。まず、症例数が少ないことです。解析する数が少ないとどうしても精度の低い結果になりがちです。また、手術を行った患者さんで、死亡が多いですがこれは比較的手術が難しい方だったのではないかと思っています。すなわち手術可能とは判断されたけれど、ギリギリだったのでは、との疑いがあります。しかし実際にはそのような患者さんは多いので、ある程度の手術リスクがあるような人は無理して手術するより放射線治療のほうがよいのかもしれません。
また、話が飛びますが、最近免疫チェックポイント阻害剤と放射線治療と相性が良いということが言われています。放射線治療を行うことでがんから抗原が露出し、免疫機能が賦活化されのかもしれません。早期肺がんに対しても、転移などを予防するために免疫チェックポイント阻害剤を早期から投与するという選択肢も今後はあるかもしれません。ただ、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤は現在のところ大変高額で、保健医療が破綻するのではないか、とマスコミなども賑わせています。これも大きな問題なので、もう少し安く供給できるようになると良いですね。